幼児教育の必要性を感じて、自分なりに勉強していくなかで出会ったのがこの『幼稚園では遅すぎる』です。
この本はソニー創業者の井深大氏が1971年、つまり今から50年近くも前に書かれていたものなのですが、現代の子育てのヒントとなるがたくさんある名著だと思います。
幼児教育の目的は何か?
幼児教育というと『英才教育』や『早期教育』のように、早くからどんどん教育を施すことで『天才をつくる教育』のことを言っていると思われる方もいるかもしれませんが、そうではありません。
この本では、幼児教育の唯一の目的を『柔軟な頭脳と丈夫な体をもった、明るく素直な性格の子どもに育てること』と言っています。
すると次にこういう意見が出てくるかもしれません。
「そのような目的ならば、何も幼児期にする必要はない」と。
ところが、そうではないのです。
脳の発達の段階を理解する
最近の脳に関する研究によって、人間の能力や性格が、0歳から3歳くらいまでの幼児期に大きく形成されることが明らかになっています。
例えば脳細胞というのは、生後、各細胞間を結ぶ橋のような突起が増えていき、お互いにつながって絡み合って、外から入ってくる情報処理の働きができるようになります。
そしてこの脳細胞の絡まり合いの配線工事が急速に進む時期が、0歳から3歳の時期だと言われています。
じつに配線全体の70%から80%が3歳までに出来上がってしまうというのです。
もちろん4歳以降も脳の発達はするのですが、その発達は別の部分の配線になるということです。
ですので、コンピューターでたとえるならば、3歳までがハードウェアの開発、3歳以降がソフトウェアの開発や使用というように言えると思います。
つまり、3歳までに作られるハードウェア自体がよくなければ、いかにソフトウェアに対する訓練を施したとしても、効果的ではないというのです。
生物としての成長と関連づけた環境づくりをする
当たり前のことですが、私達人間も生物です。
そして生物ならば、その成長過程でそれぞれの特徴的な発達があるはずです。
私は、その時その時の顕著な発達に効果的に働きかけられる環境を提供するのが幼児教育の本質だと思います。
そしてこのことを私たちはもっともっと深く考えて、育児や教育にあてはめていくべきだと思います。
小中学生を教えていて、学ぶことにつまずいている子ども達のなかに、その原因が幼児期までの育てられ方にあるのではないかと思われることがあります。
それはお腹のなかにいるときの胎教の違いや、読み聞かせの不足、また日常のコミュニケーション不足や家庭環境の変化など、一見すると成績に全く関係のないような事柄に見えるので軽視されがちですが、私はこれらは就学以後の子どもの能力や成績と相関性があると感じています。
就学が始まり、成績がつけられるようになってから子どもに働きかけるのでは、すでに遅く、効果的ではないということがあると思います。
今の育児に対する危機感をもっと持ってほしい
育児は大変です。
言うことが全く分からない時期からスタートして、やっとこちらの言っていることが理解できるようになっても、こちらの思うようにならないことばかりです。
多くのケースでは、ママが育児の中心で、パパは仕事の合間でのサポートであれば、ママの負担はなかなか軽減されません。
とはいえパパも、毎日必死にギリギリ踏ん張って働いているケースが多いと思います。
そんな現実のなかで、『育児をもっと頑張って!』と言うのは酷かもしれません。
ただ、人間という生物に、この時期にしか発達しない脳の存在がある以上、その発達をきちんと促進できる環境を整えるのは、親として、というよりも、人間として不可欠な活動であるように思います。
能力の開発が、機会損失によってなされないというのは切なすぎます。
私は、親はもっともっと幼児期の育児に全精力を注ぐべきだと思っています。
子どもの未来のために、今だけしか獲得できない能力の開発にもっともっと貪欲であってほしいと思っています。
この本を書いた井深氏の想いもそうであるように思います。
読みやすい文章ではありますが、実に深く考えさせられる本です。
興味のある方はぜひ読んでほしいと思います。
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